
デスクの引き出しに、小さな紙袋が入っています。
ここ数日、仕事の合間にちらっと思い出しては、「まだ食べない」と決めていたやつです。買ったのは先週の土曜日。駅ビルの地下を通ったとき、なんとなく足が止まってしまって。ショーケースの中に並んでいた小さなチョコレートたちが、なんていうか、妙に気になってしまったんです。
値段を見て、一瞬だけ「いや、でも」と思いました。たった1粒で、このお値段。でも、「今日は買う日だ」と心の中の何かが言ったので、買いました。そういう日って、あるじゃないですか。根拠はないんですけど、なんか、そういう気がする日。
で、ずっと引き出しに眠っていたのを、今朝やっと取り出しました。
今日は特別なことは何もない日でした。タスクが少し片づいて、ルナが珍しく膝の上でぐっすり眠っていて、コーヒーがちょうどいい温度で。そういう、ふつうに整った朝。
「今日だ」と思いました。なんとなく。
紙袋を開けると、ちいさなチョコレートが1粒、薄紙に包まれていました。手のひらにのせると、思ったより軽くて。これだけで、あのお値段かぁと一瞬思ったけど、すぐにそれを頭の隅に追いやりました。今は損得を考える時間じゃない。
ゆっくり、薄紙を剥がしました。チョコレートの香りが、ふわっと上がってきました。
甘い。でも、よく嗅ぐと、少しだけ土のような、木のような、何か複雑なものが混ざっている気がします。こんなに小さいのに、なんか、色々入ってるんだなと思いながら、ひとくちかじりました。

そのとき、ルナが目を細めました。
チョコレートの気配を感じたわけじゃないと思うんですけど、ちょうど目が合って。「なに食べてるの」みたいな顔をしていました。ねえ、これはあなたにはあげられないんだよ、と心の中で言いながら、もう少しだけゆっくり味わうことにしました。
口の中でだんだん溶けていって、最後に何か、ほんのり苦いものが残りました。
それが、おいしかった。
たぶん、「高いから」じゃないと思います。ゆっくり食べたから、かな。ちゃんと向き合ったから、かな。うまく言えないんですけど。
仕事の合間にお菓子を食べるとき、わたしはだいたい袋ごと机に置いて、気づいたら全部なくなっている、みたいな食べ方をします。手が動いてるんですよね、考えてる間に。「あ、もうない」ってなって、ちょっと後悔する。あの感じ。
でも今日は違いました。1粒しかないから、ちゃんと食べました。
なんかそれだけで、ちょっと違う朝になった気がします。
ルナはそのままうとうとして、コーヒーは少し冷めて、タスクはまだ残っています。なんにも変わっていないんですけど。
今日のルナ、めずらしく一度も鳴かなかった。わたしのことを無視している日と、そういうモードの日があるらしい。今日はそういうモードだったみたい。