
夜の九時をちょっと過ぎたころ、なんとなく部屋の電気を消してみました。
かわりに点けたのは、前に買ったきり出番のなかった小さなランプ。オレンジ色の光が、壁の隅っこにふわっと広がって。
それだけで、部屋の輪郭がすこし曖昧になった気がします。
なんでこんなことしたのかというと、特に理由はないんです。ただ、今日は蛍光灯の白い光がちょっとだけ疲れるなあと思って。それだけ。
ソファに座って、スマホは机の上に置いたまま。
見なくていいかな、って。珍しく素直にそう思えました。
いつもなら「あと五分だけ」って言いながら画面を見てしまうのに、今日はなんだか、その気になれなくて。
薄暗い部屋の中で、ただ座っている。
それだけのことなのに、なんだか呼吸がゆっくりになる感じがしました。
明るい部屋にいるときは気づかなかったけど、影ってこんなに優しかったんだなあと。
壁にかけた麻のワンピースのシルエットも、本棚の隅も、輪郭がやわらかくて。責められてないみたいな感じがします。うまく言えないんですけど。

そしたらルナが、するりとソファに上がってきて。
いつもは電気がついてるとどこかへ行っちゃうのに、今日はなんでか隣に座りました。
薄暗いのが落ち着くのかな。それとも、わたしがじっとしてたからかな。
丸まって、目を細めて。喉のあたりがちいさく動いてる音がして。
なんにもしてないのに、なんにも解決してないのに、それだけで肩の力がふっと抜けました。
三十分って決めてたわけじゃないんですけど、時計を見たらちょうどそのくらい経ってて。
早かったのか長かったのか、よくわからない時間でした。
またあとで電気つけて、洗い物とかしなきゃいけないんですけど。
今はまだ、もうちょっとだけ。
このままでいようかな。
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**あとがき**
これ、書いてて気づいたんですけど、わたし「なにもしない時間」をちゃんと数えたことなかったかもです。三十分って、意外とちゃんと時間なんですね。