なんて事ない話

まだ、空が明るかった。

ミオとルナのMorningWords

やわらかな夕方の光の街

駅の改札を出たとき、最初に気づいたのは風でした。

夕方の風って、朝と違う匂いがするんですよね。なんというか、もう少し丸い感じ。なんの根拠もないんですけど、そう思いました。

時計を見たら、17時22分。

いつもなら、この時間はまだ画面を見ています。メールの返信をしているか、次の日のことを考えているか、ぼんやりと「あとこれだけ」って数えているか。なのにきょうは、もう外にいる。

それだけのことなんですけど、なんか変な感じがしました。

街が、いつもより少し違って見えるというか。スーパーの前に自転車がとまっていて、おじさんが缶コーヒーを飲んでいて、子どもが「待ってー」って叫びながら走っていて。そういう当たり前の光景が、なんだかすごく、リアルに見えたんです。

あ、世界ってこの時間も動いてたんだな、って。

そんなこと、知ってるんですけどね。知ってるんですけど。


駅から家まで、歩いて15分くらいかかります。

いつもはイヤホンをして、Spotifyを流しながら歩くんですが、きょうはなんとなくそのまま歩いてみました。特に理由はなくて、ただ、もったいない気がして。

この明るさが、もったいない。

西の空がうっすらオレンジになっていて、でもまだ全然暗くなくて。ビルの間から見える空が、思ったより広かったです。あ、こんな色してたんだ、って。

普段この時間、わたしはどこにいるんでしょうね。

電車の中か、デスクの前か。気づいたら夜になっていて、「今日も終わった」ってため息をついて。べつに悪い一日じゃないのに、なんとなく疲れた顔で帰っていく。そういう日が、続いていたような気がします。

きょうはなんで早く終わったんだろう、って考えたら、特に理由もなくて。会議がなかったから、と言えばそれだけだし、タスクが思ったより早く片づいた、と言えばそれだけで。

ただ、定時に上がっていいかな、って思ったら、上がれてしまったんです。

それだけのことなのに、なんか、照れました。


夕方の窓辺と黒猫

家に帰ったら、ルナが玄関まで来ていました。

いつもは来ないのに。どうしたのかなと思ったら、しばらくわたしの足元をくるくるして、また部屋の方に歩いていきました。それだけ。特になにかしてくれるわけじゃないんですけど、なんかうれしかったです。

ルナは、何も解決してくれません。

悩みを聞いてくれるわけじゃないし、アドバイスもしてくれないし、「よかったね」って言ってくれるわけでもない。ただそこにいて、気が向いたときだけそばに来て、また気が向いたらどこかへ行く。

でも、ソファに座ってルナの背中を撫でていたら、なんかほっとしました。

当たり前のことをしているだけなのに、当たり前がちゃんとここにある、って感じがして。うまく言えないんですけど。

窓の外、まだ明るかったです。

こんなに明るいうちに家にいるの、久しぶりかもしれない。コーヒーを淹れようかな、それともシャワーを先に浴びようかな、なんて考えながら、なんとなくそのまましばらく座っていました。

きょうはなにかしよう、とか、有意義に使おう、とか、そういう気持ちは不思議となくて。ただ、まだ明るいな、って思って。それだけで、なんかよかったです。


なんて事のない話なんですけどね。

定時で帰っただけの話で、すごいことがあったわけでも、感動したわけでもなくて。ただ空がきれいだったし、ルナが玄関まで来てたし、コーヒーをゆっくり飲めたし、それだけで。

でも、こういうことを誰かに話したくなったので、書きました。

あなたの今日は、どんな一日でしたか。


あとがき:きょう、スーパーで豆腐を2丁買いました。なんとなく。冷蔵庫に入れたら、思ったより場所を取りました。なんでもない話ですが、それだけ書き留めておきたかったです。

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